楽器に関するいくつかの考察1、睡眠薬




意識が溶けていく媒体は低音の響き。


私は眠れなくて、ふっと立ち上がり、ずらっと並んだCDの前に立ち尽くす。

数秒考えて、そのうちの一枚をプレーヤーに突っ込んだ。ゆったりと部屋に響きが充満していく。

一つ一つの音が、液体のようにたまっていく。目に見えるのではないかと思う。しかし見てしまえば、消えてしまうことをなんとなく知っていて、私は目を開けられない。

響きはどんどん深さを増して、そろそろベッドの上の私に触れそうだ。水よりも粘性の高い、しかしさらさらしたそれは、私の体を冷やすことも暖めることもなくつつんでいく。

視覚以外の感覚全てが、音の中に沈んでいることを感じ取って、私は大きく息を吸った。それをゆっくりと吐き出しながら、意識も一緒に流していく。今日のいろいろを流していく。嫌だとか楽しいとか、そういうものは低音の中でさした抵抗もできず寝てしまって、明日の朝私が目覚めるまでもどってこない。

そうやっていって、私の中に最後まで残るのは貴方のこと。でもそれすら、呼吸をするたびに眠っていく。好きだという感情や、それに伴う醜い思いたちでさえその響きに眠らされて。最後は、私が眠りにつく。


そろそろ天井まで満ちただろうか。









2008/10/15